生き急いでいた島田紳助が選択した上岡流の突然の引退
――追悼「芸人・島田紳助」
(2011.8.27)
関西の芸能界には、上岡ショックと呼ばれるものがある。
当時人気の頂点にあった上岡龍太郎が、数年後の2000年の4月に芸能界を引退すると公言し、
最初は誰も本気にしていなかったのだが、2000年が近づいても引退宣言を変えず、
直前まで第一線の活躍をしていたにもかかわらず、2000年の4月にすっぱりと引退してしまったのである。
バラエティ番組のメインパーソナリティともなると、引き際が難しい。
当意即妙の反応をしつつ番組を進行するには、経験とともに体力も必要である。
いつまでも第一線にはいられないが、今さら脇に回ることも難しい。
かといって、本当に自ら身を引いてしまうのは、それはそれで勇気がいる。
それを、上岡龍太郎はやってのけたのである。
上岡龍太郎と島田紳助はともに漫才出身であり、
バラエティ番組の司会者に転じて天下をとったという点で良く似ている。
理知的なしゃべりを売り物にして、許せないものは許せないと言い続けた上岡と、
新人時代から「売れる漫才」を戦略的に研究し、またそれを実践してきた紳助とは波長があっただろうし、
上岡が現代的に見えて芸歴も長く昔からの芸界を愛したのに対して、
紳助も破天荒に見えて島田洋之介・今喜多代に入門した古い芸界を身体で知っている芸人である。
上岡と紳助が共演した深夜の実験番組「ＥＸテレビ」では二人が数々の新番組を企画し、
「なんでも鑑定団」は「ＥＸテレビ」での企画を発展させ、現在まで続いている。
それゆえ、島田紳助にとって、14歳年長の上岡龍太郎は、常に前を走っていてくれる先輩であるだろうし、
特に、その引き際に感じいるところも大いにあったに違いない。
しかし、それは前置きだ。
今さら、引退会見が不可解だと言ってみたところで仕方がない。
もともと、会見で語られたことが全て本当であるとは限らない。
何か別の大切なものを護るために、紛れ込ませた嘘は当然あるだろう。
しかし、すべてが嘘であれば長時間の会見では必ず矛盾が生じるし、また、すべてを嘘にしてしまう必要もない。
直接、引退の引き金となった暴力団関係者との出会いについて、
紳助は１０数年前の個人的なトラブルだったと説明している。
報道などによると、ある番組中で茶化すように右翼筋を刺激する発言をしたために、
連日、テレビ局に街宣車が抗議活動をするような事態に至ったらしい。
適切かどうかは別にして、右翼筋との仲裁を頼
むのであれば闇社会の大物は適任なのだろう。
会見では、紳助は暴力団関係者に謝礼等は渡していないとのことだったが、
少額の謝礼よりも、大物芸能人から受ける「強い恩義」の方が、闇社会の人物にとっては有益だったに違いない。
言わば、この時点で紳助は、ダークサイドに落ちたのである。
その後、紳助が暴力団関係者と呼ばれる人物と、どんな交際をしていたかはわからない。
さっそく「より親密だった」という報道が流れているが、それが本当に「護りたかったもの」なのかさえ定かではない。
吉本としても、テレビ局に迷惑をかけることを承知で、
最も今売れている商品の一つである「島田紳助」を謹慎含みで呼び出したからには、
謹慎させる必要があるような何らかの事情があったのだろう。
いつからだろうか、紳助がレギュラー番組を増やし続けた時期がある。
別に、売れっ子のタレントが、どんなにたくさんの番組に登場しても良いのだが、
紳助の場合、どんな番組でも、その番組の企画よりも紳助のトークの方が面白いため、
結局、どの番組も紳助のトークを鑑賞する番組になってしまいがちだ。
「行列のできる法律相談所」のように、「法律相談」よりもトークの方が長くなってしまった番組もある。
もちろん、番組の企画にあわせてトークの仕掛けも変わるが、
絶妙のコントロールであるとはいえ、ゲストをいじるという手法ばかりを続けていては飽きられる。
戦略家の紳助ならば、そんなことは百も承知であるはずなのに、なぜか紳助はレギュラー番組を増やしつづけた。
そこには、＜飽きられてもいいから、今は徹底的にテレビに出ておきたい。＞という紳助の意思があるかのように見えた。
まるで「生き急いでいる」かのように。
そうしたことを踏まえるなら、紳助はいつかこんな日が来ることを予感していたのかもしれない。
その「こんな日」が、「黒い交際疑惑」による突然の引退であったかどうかはわからない。
ただ、いつ引退してもよいという覚悟だけはしていたにちがいない。
そして、今回の問題で、おそらく謹慎を提案された時、
謹慎をするくらいなら引退しかないというのが紳助の判断だったのだろう。
あるいは、今、謹慎したならば、再びトップ司会者の地位で迎えてもらうことは相当に困難だろうし、
その困難を乗り越えてまで、芸能活動を再開するための気力・体力が出ないと判断したのかもしれない。
いずれにせよ、突然の引退会見で、芸人・島田紳助は「衝撃の引退」を見事に演出し、その最期を演じきった。
芸人・島田紳助は引退し、もう私たちの前にはいない。
師匠に島田の名前を返した長谷川某が実はどんな人物で、この先どんな人生を送るかについては興味がない。
ただ、天才テレビ芸人・島田紳助が、もう二度とテレビに登場しないことを惜しむばかりだ。
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