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心理学の「種明かし」としての脳科学の最新研究
――第50回北海道作業療法学会学術大会市民公開講座・中野信子
「運を科学する」を聴く (2019.6.13)
脳科学者・中野信子の講演を聞いた。
北海道作業療法学会学術大会・北海道作業療法士会研修大会の市民公開講座だ。
ただし、このタイトルに沿った話もさることながら、
最新の脳科学を一般向けに解説する際の話の成り立ちが、なかなか興味深いものだった。
入口は、最後通牒ゲーム。
今、ここに現金があるとして、 一人が自由に分配する権利を持っている。
もう一人は、「相手の分配通りに受けとる」こともできるが、
「2人で金を分配すること自体をやめにする」こともできる。
損得だけでいえば「どんなに少額でも受け取る方が得」なのだが、
実験すると「そんな分け前なら分配自体を拒否する」という例も少なくないらしい。
社会心理学をほんの少しかじった者としては、さもありなんな話なのだが、
この実験自体が経済学者によるもので、
「人は合理的な行動をしないこともある」ということ自体が衝撃であったらしい。
そんな「行動経済学」の話を、なぜ脳科学者の中野信子がするのかと思っていると、
どんな人が「分配通りに受け取るか」「分配を拒否するか」について、
「規範を重んじる人ほど、拒否しやすい」というような性格分析のデータを出してきた。
性格分析も、教育心理学をほんの少しかじった者としてはなじみのあるテーマだ。
で、ここからが脳科学になるのだが、いきなり脳の断面の模式図になって、
「ここのこれがあっちにつながるのだが、ここのこれが少ない人はこんな性格になる」みたいな説明をサクッとしてくれた。
説明が簡単だったのは、このあたりを私を含め一般の人に説明しても理解できないからで、
「脳の神経細胞のこんな状態」が「こんな性格」として発現するということが、
脳科学の成果としてわかっているのです、というくらいのスタンスだ。
つまり、脳科学を一般向けに手加減して説明したら心理学になりましたみたいな感じだ。
今を去ること数十年前にほんの少し心理学をかじった感覚でいうと、
「心の中身」についてはブラックボックスであることが前提になっていて、
調査や実験を通じて発見した事実から、その働きの一端を推測するという感じだった。
いまや、どういう仕組みで何が起こるかが脳科学で説明できるようになっているらしい。
今回の話で希望でもあり興味深かったのが、「遺伝と環境、もしくは教育の関係」だった。
「母ネズミからよく舐められて育った子ネズミは迷路実験が得意」という傾向があって、
「遺伝的に迷路実験が苦手な子ネズミ」を「子をよく舐める母ネズミ」に育てさせると、
その子ネズミの「迷路実験の成績が上がる」という結果が得られたらしい。
「ネズミを使った迷路実験」というのも本当に懐かしくて仕方ないのだが、
要は「おバカ」なネズミも賢くなる育て方をすれば賢く育つということらしい。
しかも、追加実験によると、その賢さは一代限りで子どもには遺伝しないらしい。
こだわるようだが、ここまでなら典型的な実験心理学なのだが、
脳科学者の最新の知見によると、
「遺伝子は変わらないが、その読まれ方が変わる」のだという。
これも、詳しい話は難しすぎて省略されたのだが、
遺伝子は同じであっても、「特定の場所が繰り返し読まれる」ようになったり、
「それまで読まれなかった場所が読まれる」ようになったりするとのこと。
それで何がどう変わるのかについては、もっと難しい話になるのだろうけれど、
少なくとも、遺伝子がすべて決定しているというような運命論に絶望する必要はなく、
「育てられ方」が変わることで個体の能力が大きく影響することもあるということが、
それこそ「遺伝子(の読み方)レベル」で解析されたみたいな話だった。
そんな「いい話」もさることながら、
社会学にアイデンティティを持ちつつ心理学や教育学にも寄り道した立場からすると、
人は難しい数式を解いて導き出した合理的な答えどおりに行動しないこともあることを経済学が「発見」し、
心理学が探求してきた思考方法を身につけつつあるのは歓迎だ。
はっきり言って、「行動経済学」なんて言葉を聞くとニヤニヤしてしまう。
とはいえ、さらに心理学の「種明かし」として脳科学が登場することで、
(世の中には、「神経経済学」なんて言葉もあるらしい。)
心理学の長年の成果を単なる途中経過として軽く見られてしまいそうになるあたりが、
結局、理系同士が仲良くして自分たちだけが科学だと言い張る時代に戻りそうで、
それが間違ってるとまでは言わないが、なんとも面白くないなと思ったのだった。
第50回北海道作業療法学会学術大会・第8回北海道作業療法士会研修大会公式サイト
Wikipedia
内中野信子ページ
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