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剣術が不得手な女王の護衛が引き受けることになった秘密・・・紫堂恭子「虚妄の女王」１巻を読む
(2021.11.11)
落ち着く暇もない中、交渉相手がサウル・カダフである安心感・・・紫堂恭子「虚妄の女王」２巻を読む(2021.11.24)
それ以外はなかったかとも思わせるがそれしかなかった決断・・・紫堂恭子「虚妄の女王」３巻を読む(2022.7.1)
掟を破ると滅びるのに修復されてしまう不思議な村・・・
紫堂恭子「魔女の箱庭」１巻読む(2023.11.14)
世界の謎が解けた
先にあったシビアな現実・・・ 紫堂恭子「魔女の箱庭」２巻読む(2024.2.13) =追記・完結=
剣術が不得手な女王の護衛が引き受けることになった秘密
―――紫堂恭子「虚妄の女王」１巻を読む(2021.11.11)
剣術の稽古に身の入らない少女・フィアンナは指導係の青年・アドマッドにしかられ、
腕の立つ女剣士のマギーからも嫌味を言われ、
なんかぬるく始まったなあと思っていたら、それは若い読者をつかむための糖衣で、
たちまち王家の護衛を司る一族の娘であるフィアンナが、
女王候補の護衛兼身代わりとして王宮に向かうというシビアな展開になった。
しかも、王宮はカリスマ的な王が亡くなった後、
その継承者とされる者が続けて５人も不審死、暗殺と思われるが犯人は不明というから、相当に厄介だ。
とはいえ、フィアンナは剣術はダメだが鼻がよく効くので、
毒殺を回避する能力には長けているかもしれない。
アドマッドもマギーもいっしょなので、姫君ともどもフィアンナを護ってくれそうだ。
ところが、女王候補のセオドラ姫がフィアンナ以上に気楽で親しみやすくて、 要するに良い人すぎる。
亡き王の妹の子であり、王位継承どころか人質として王宮に残されていたので、
女王になるからといって変な気負いがないし、
外の世界にいろんな思いを残しているのもわからなくはない。
そして、厳重な警備と危機対応のシミュレーションを繰り返しつつ、 無事に女王戴冠の日は近づく。
その事前のお披露目になる馬上試合の表彰式で、 あちゃちゃちゃちゃ、いきなりかよ。
今のところ、闇の深さを感じさせるばかりで、何のヒントもない。
「逃げる少女」のあとがきによると全３巻という。
これから順次、謎解きが始まるのだろう。
しかし、謎が解けるだけで平和はやってくるのだろうか。
秋田書店「虚妄の女王」第1巻ページ
落ち着く暇もない中、交渉相手がサウル・カダフである安心感
―――紫堂恭子「虚妄の女王」２巻を読む(2021.11.24)
王家の護衛を担当してきたバンプラス一族の一人娘のフィアンナは、
剣の腕はからきしだが女王候補のセオドラ姫に似ていることから、
姫の身代わりも兼ねてお側付きの警護担当となる。
しかも、王位継承者が５人も謎の死を遂げる中、セオドラ姫も暗殺者に狙われており、
よりによってフィアンナが身代わりを務めているさなかに、
運悪くセオドラ姫は「その場にいた護衛の一人」として亡くなってしまう。
戴冠式の日は迫る。
どうするフィアンナ、というところだが、この流れならフィアンナがニセの女王になるしかない。
知っているのは、一緒に王宮に入った護衛者の仲間と、後見人のカルライグ伯だけだ。
というところに、もう一人の王位継承権者のトライド王子が 、
(フィアンナが演ずる)セオドラ女王のすぐ側に護衛役兼監視役としてゴリ押しで入り込み、
しかも、トライド王子の母である第４夫人が、この王国をかつて支配したルウム系ということで
トライド王子が王位を継承するのは国民は忌避するだろうという設定までついているので非常にややこしい。
奥行きの深さにワクワクもするけれど、いささか設定疲れも否めない。
そこへ隣国ルウムとの小競り合いが発生、頼りのカルライグ伯も不在となると、
偽女王のフィアンナがトライド王子を引き連れて交渉に出向くしかない。
そこに登場した敵の軍団長が、なんと懐かしのサウル・カダフ君！
あまり記憶力が良くないせいで、ここまで「辺境警備外伝」と言われてもピンと来なかったのだが、
冷静沈着にして洞察力も深く、人情味も備えるサウル・カダフが交渉相手となると、
一気に「辺境警備」感に満ち溢れてくる。
とはいえ、フィアンナが謁見したセオドラの乳母が、
セオドラが偽物とわかった上で「誰も信用しないで」と密かに耳打ちするし、
なにより、フィアンナが落ち着いて考える暇もなく次々といろんな事件が起こるので、
読んでいても誰が信用できるかをミスリードされる隙もない。
どうやらトライド王子については対抗勢力の密偵のようでいて、
実は信用できそうな手ざわりはしているのだけれど。
秋田書店「虚妄の女王」第２巻ページ
それ以外はなかったかとも思わせるがそれしかなかった決断
―――紫堂恭子「虚妄の女王」３巻を読む(2022.7.1)
辺境警備外伝シリーズの３巻目にして、最終巻である。
殺された本物の女王候補セオドラの身代わりとして、
ニセのセオドラとしてエアドロム女王に就いたフィアンナが、
隣国のルウム王国との紛争を終わらせるために自ら交渉の席に着くのだが、
その交渉相手はルウムの軍団長サウル・カダフだった。(だから「辺境警備外伝」だ)
冷静沈着な軍人(にして、今も熟女の奥方さまが大好き)のカダフは、
フィアンナに二千年前のエアドロム国王モディグの偉業を描いたレリーフを見せると、
・本物の首長を殺して入れ替わっていた偽物を見破り、斬首すると自ら首長となった
というエアドロム国内で伝わる正史に対し、
・臣下であったモディグが謀反を起こして首長になると、自分に都合の良い話を創作した
というルウム王国の歴史書の記述を語る。
しかも、このことを歴史の真実とは何かというような方向には進めようとはせず、
「どれほど悪事を働いていたとしても最後に残った勝者こそが正義」という
政治や権力の世界の「どこまでも暗く深い」闇を若いフィアンナに説く。
なかなかにシビアな上に、見せ方が上手い。
実際に「虚妄の女王」であるフィアンナにすれば、
とてもじゃないが「他人事に思えない」(との書き文字)のでこたえる。
なら、どうする。
ニセモノであっても生き残って勝者を目指すのかとも思ったが、事はそう簡単にはいかない。
なにせ、(他の国王候補がそうであったように)いつでもフィアンナに取って代わり、
自分が最後の勝者になる気まんまんの大人たちに囲まれている。
善意と思われるセオドラの乳母が「誰も信用しないで」と耳打ちするほどなので、
誰が味方かもわからないし、剣の腕もカリスマ性もなく、魔法が使えるわけでもない。
それでも、フィアンナの持ち前の行動力と洞察力で、
セオドラ(フィアンナではない)を巡る闇が解き明かされたところで、
フィアンナはすべての策略から降りることを選択し、
実は良い人だったトライド王子とともに、異国へ旅立つことを選択した。
それしかなかったのかなあとも思うが、 きちんと、「それしかない」ようには描かれていた。
しかし、選んだ方の道もそれはそれで相当に苦難の道であるのだろうとは思うのだけれど。
秋田書店「虚妄の女王」第３巻ページ
掟を破ると滅びるのに修復されてしまう不思議な村
―――紫堂恭子「魔女の箱庭」１巻を読む(2023.11.14）
紫堂恭子に対しては、クサレ縁のような愛着がある。
毎回、魅惑的な異世界を構築し、現実社会にも通じるような問題を提起しながら、
人としてどう生きるべきかについて語り、それなりの結論に導いてくれる。
もっと語ってくれよと思うところもあるのだが、新作が出れば楽しみに読んでいる。
そんな紫堂恭子の新作である。
かつて厄災に見舞われた村は、魔女に頼んで平和で豊かな村にしてもらったらしい。
その条件は、「誰一人村の外に出ない、外の者も誰一人村の中に入れない」だった。
そして、一人でも掟を破れば、村は滅びる。
主人公のレイラ(16歳)は、そんな小さな村の昔ながらの暮らしに飽き足らなくなり、
村を取り囲む広大な壁の前に立つ。
本当に外に出た者はいないのか、自分が外に出たら本当に村が滅びるのか。 勇気が出ない。
というところに、壁の外から人の声が聞こえる。
むろん、このまま引き下がれば物語が始まらないのでレイラはやらかしてしまうし、
それで村が滅びたら物語が終わるので気がつくと崩壊したはずの村が元に戻っている。
というか、その日の朝に戻っている。(「ビューティフル・ドリーマー」方式やね。)
なぜだ。おかしい。何か不思議なことが起こっている。
村を崩壊から救うには村の謎を解き明かさねばならない。
とレイラがいろいろ調べ始めた時、壁の前で村に魔法をかけたという魔法使いと出会う。
「おまえにとってつらい事実でも、本当に知りたいと思うかね？」
え。もう、謎解きなのか。
秋田書店サイト内「魔女の箱庭」１巻紹介ページ
世界の謎が解けた先にあったシビアな現実
―――紫堂恭子「魔女の箱庭」２巻を読む(2024.2.13）
１巻の巻末で「謎解き」が予告されていたこともあり、やはり物語は２巻で終わった。
しかし、１巻で予感していたような謎が解けて後日譚で終わるという雑な展開ではなく、
２巻の中でなかなかハードなもう一波乱があった。
世界の成り立ちの「謎解き」という性格上、具体的には書けないのだが、
そんなところに落とし込んだかあという鮮やかさはあり、
シビアな現実と地続きなファンタジーを創造する紫堂恭子の力も感じられた。
ただし、最後のまとめがいくぶん急ぎ足になったきらいもあるので、
もう少しレイラに冒険をしてくれたら、３巻ものになったかなあとも思う。
と書きつつも、「私だけが気づいた世界への違和感とその秘密」という物語の性格上、
恋人のセドリックを振り切って単独で旅をすることとなったため、
ベテランの味で工夫は凝らしているものの、独白ばかりが続く苦しさもあった。
小説であれば、内面に深く切り込んで語り続ける単独行は珍しくないが、
絵で見せるマンガには不向きな題材であったのかもしれない。
あるいは、バディがいない冒険の寂しさ以上に、
世界から丸ごと拒絶されたような絶望感を絵で見せられることのつらさもあった。
イヤな時代が作品に反映されたところもあるのだろう。
それでも最後の数ページに希望を残してくれたのはよかった。
ただ、読者のワガママとしては、 そうした希望の部分をもう少ししっかりと味わいたかったのだ。
たとえ、本を閉じた後に、つらい現実に戻らなければならないのだとしても。
秋田書店サイト内「魔女の箱庭」２巻紹介ページ
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