躍動感ある謎解きの心地よさと原作者イチオシの芦田愛菜の安定感
――― 原恵一監督「かがみの孤城」を見る(2023.1.26)
芦田愛菜の「まなの本棚」に収録されている芦田愛菜(当時中学生)と辻村深月の対談に、
次のような辻村深月の言葉がある。
(「かがみの孤城」の本屋大賞受賞時に、芦田愛菜を主人公に実写化はどうかと問われ)
「芦田愛菜ちゃんに演じていただけるなら、絶対オオカミさまがいいです」とお答えしたんですよ。
(対談を聞いていたスタッフ一同、「あ〜!!」)
(オオカミさまは)その行動の裏には、実は一筋縄ではいかない理由があって、
全役中、いちばん難しい役になると思います。
ちなみに、芦田愛菜は本棚に辻村深月コーナーがあるほど愛読していることもあって、
光栄だがおそれ多いと謙遜しつつ言葉を濁す、というなかなか大人な対応をしている。
このたび、その「かがみの孤城」がアニメ化され、原作者イチオシの芦田愛菜が「オオカミさま」を演ずるとなれば、
はたしてどんな形に仕上がった気になるとしたものだ。
例によって、原作は読んでいないので、
映画をほめているのか、原作をほめているのかわからなくなったが容赦してほしい。
中学一年生の"こころ"は学校にいけなくなってフリースクールに通い始めたが、
ある日、部屋の鏡に引き込まれ、離れ小島がそのまま城になった「孤城」に招かれる。
そこには似たような境遇の男女六人の中学生が待っていた。
こころを含む七人を呼び寄せたオオカミの仮面をかぶった少女「オオカミさま」は、
この城のどこかにある願いの部屋の鍵を探せ、願いの部屋に入れるのは一人だけ、
その一人の願いはどんなものでもかなえることができる、
誰かが部屋に入り願いを達成すると孤城での記憶は失われる、
期限は翌年の３月30日まで、と言い放つ。
日本時間の９時から17時なら出入り自由だし(それ以外の時間だと狼に食われるらしい)、
一人ずつの寝室やオーブン付キッチンや大時計のあるリビングなど孤城は意外と広いし、
別に何が何でも鍵探しをしなけばならない理由もないし、
せっかく友達になれたのだから、自分の願いを達成と引き換えに皆との大切な思い出を失いたくないと、
積極的に鍵を探さないことにした七人だが、ある事件をきっかけに事態は急変する。
なぜこの七人なのか、
それぞれワケありらしい七人が、これまでどんな生き方をしてきたのか、
鍵のありかのヒントらしい、孤城のそこここにある印も意味ありげだ。
そして、そもそも「オオカミさま」がなぜそんなに妙にエラそうなのかも含め、
七人が集められた孤城は謎だらけだ。
なので、希望と絶望が同居する繊細な中学生らしい手探りの人間関係の構築、
対話から生まれる気づきによるゆっくりとした成長物語とともに、
本来の(?)課題でもある鍵探しも含め、謎解きの要素も多い。
(そして、自分が勝手に呼び集め、一方的に出題しておきながら、
なぜか「オオカミさま」だけが謎解きが進まないことにいら立っていたりする。)
七人が少しずつ自分語りをするうちに見えてくるものもあって、
同じ中学生なのに知識や文化に違いがあったり、
リオンがハワイ在住で他のメンバーと時差があったり、アキが紅茶好きだったり、
といったヒントの出し方も絶妙だ。
終盤、物語は大きく動き、「かがみの孤城」の秘密が一気に解き明かされていく。
転がっていたたくさんのピースが納まるべきところにピシピシとはまっていく過程は、
やはり見ていて本当に心地よい。
最後まで残ったミッシングリンクの謎が解き明かされる過程も鮮やかだ。
孤城のルールを熱意が動かした、もしくは「善処」させたらしい部分もあって、
ほんの少しならば世の中は変えられるかもしれないという希望もあった。
いささか矢継ぎ早な感じはしたが、原作はハードカバー558ページの大著だ。
どんどん進行する映画では、小説のように地の文でじっくり描くこともできないし、
見ている方が何かに気づいても、立ち止まって前のページ読み返すこともできない。
その分、ヒントのセリフを咀嚼する暇もなく、
ミスリーディングしたままどんどん時間が経過して一気に謎解きに向かう躍動感がある。
ひょっとすると、原作ファンにはなにかと不満なところもあったかもしれない。
しかし、アニメから見た者には十分満足だ。
一言でいえば、
ほんま、よう出来てる話ですわ。
そして、芦田愛菜の「オオカミさま」はというと、
どっぷりと「かがみの孤城」につかった中から生み出されてきた演技だけに、
その明るさも、真摯さも、いらだちも、尊大さも、
「かがみの孤城」の世界観を一人で背負ったような熱演だった。
声の宛てた演技者の中では、若い方に属していたにもかかわらず。
映画「かがみの孤城」公式サイト
ポプラ社サイト内「かがみの孤城」紹
介ページ
Wikipedia
「かがみの孤城」ページ
Bezzyサイト内「物語の先に"救済"を―
映画『かがみの孤城』原恵一監督が語る作品に込めた想い
小
説丸サイト内「インタビュー辻村深月さん『かがみの孤城』」